顎関節内障の病態解明を目的とした実験的研究の一環として、実験動物に外科的処置を加え顎関節円板前方転位を惹起させ、その後に生ずる関節病変を組織学的および免疫組織化学的に観察した。 実験動物は10週齢の日本白色種家兎の雌を用いた。実験開始時に実験動物は、第1群(外科的処置により関節円板前方転位を惹起させた群)、第2群(外科的に関節腔を開放した後、円板転位処置を加えず創を閉鎖した群)、および第3群(外科的処置を加えない対照群)に分けられた。外科的処置は、耳介静脈からのネンブタール麻酔下に耳前部の局所麻酔を併用し行った。片側の耳前部を剃毛、消毒した後、耳前部皮膚切開を加え、関節包に到り上関節腔を開放した。さらに、第1群では宮本ら(1992年)の方法に準じ、関節円板後方肥厚帯に縫合糸を穿通し前方に牽引することにより円板転位を惹起し、縫合糸を頬骨に結紮した。実験動物は、術後1週目に屠殺し、関節腔内の肉眼的観察を行った後に、顎関節部を摘出した。摘出体はOCT compoundに包埋し、液体窒素にて凍結した後、クリオスタットを用い約7μmの厚さに薄切した。クリオスタット切片はABC法にて免疫組織化学的染色を施した。一部摘出体は、10%中性緩衝ホルマリンにて固定後、EDTAにて脱灰した。さらに、通法に従いパラフィン包埋した後、連続切片を作製し、光学顕微鏡的観察を行った。その結果、第1群では肉眼的観察により関節円板の前方転位の状態が確認された。また免疫染色により、顎関節滑膜組織にCD4陽性細胞の浸潤を認めた。神経特異蛋白のひとつであるprotein gene product9.5(PGP9.5)抗体を用いた染色により第3群では滑膜組織における神経線維の分布を認めた。現在、第1群の顎関節滑膜における神経線維の分布と免疫系細胞の局在について検索中である。
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