先天性奇形の一つである唇顎口蓋裂を有する小児は形態的な複雑性あるいは機能の学習困難性から構音、運動、咀嚼障害などの顎口腔機能障害がしばしば認められる。しかし小児、特に低年齢児において協力度や測定条件の厳しさなどから顎、口唇、舌の動きを客観的に把握することは非常に困難なため、主観的観点からの評価で治療に対応してきた。そこで今回は、低年齢児にも応用可能で、且つ客観的評価が得られる医用動画像解析システムを用いて、乳歯列期健常児並びに唇顎口蓋裂児の顎口腔機能運動の評価を行ない、比較、検討を行ったところ次のような結果が得られた。 構音、咀嚼運動時の顎および口唇の動きについて、下顎運動軌跡の解析(軌跡の形態観察)、各時点における下顎位を測定したところ、乳歯列期健常児群ならびに唇顎口蓋裂児群ともに男女間における差異は認められなかった。構音時の顎運動様式としては唇顎口蓋裂児群では健常児群とは異なり、やや不安定な運動軌跡を示した。また咀嚼運動時の顎運動様式としては、健常児群では成人と異なり、正面観において開口路が外側へと向い、閉口路は更に外側に位置する者が多かった。それに比べ唇顎口蓋裂児群では、全体的に安定しておらず、開閉口の方向が逆転したものも認められた。口唇の動きとしては各群間に顕著な差異はなかった。 また、構音運動時の舌、口蓋接触様式を、ダイナミックパラトグラフィーを用いて観察を行ったところ、唇顎口蓋裂群において本大学では言語治療も含めたチームアプローチを行い、比較的早期に構音障害を持つ患者に対し言語治療を開始しているため、訓練により正常化された症例が多く、健常児群と顕著な差異は認められなかった。言語治療中の者では口蓋化構音と側音化構音に特徴的なパラトグラムパターンを示す症例が僅かながら見られた。 今後はこれらをさらに詳しく解析した後、顎運動と舌運動の同期解析を試みる所存である。
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