オレフィンやカルボニル基はπ面を作る。オレフィンへの求電子反応やケトンへの求核反応において試薬の攻撃する方向性(π面選択性)が、その反応中心の周りの立体環境の違いに因るのではなく、反応中心から遠くにある置換基に因って引き起こされるπ軌道の変形によって規定され得る。このπ軌道変形は本来対称的な全く同じ大きさを持つ(ただし位相は逆)πロープの非対称化と捉えるべきである(図1)。 我々は芳香族π軌道とオレフィン(カルボニル基)π軌道がスピロ共役した新規フルオレンスピロペンタン誘導対を初めて合成し(図2)、π反応中心から遠くにある置換基(X)によって反応(オレフィンのエポキシ化、ジヒドロキシル化、ケトンの還元)に偏りを与えることを示した。さらに共役系の異なるビシクロ[2.2.2]オクタトリエン誘導体をデザインし(図2)、遠隔置換基によるπ反応面の偏りを明らかにする。これらの反応面の偏りは立体効果でも電子密度の偏りでも説明が付かず、π面に対して非対称な軌道相互作用に基づく新しいπ面選択の理論(軌道間軌道拡大則)を提出した。
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