ルシジン(L)のデオキシヌクレオシド付加体の大量単離、構造決定に予想外にてまどった。アデニン、グアニン塩基付加体については、DMSO中での反応溶液をLH-20カラム、ODS-HPLCの組合せで、精製単離が可能であったが、デオキシヌクレオシド付加体の場合、LH-20カラムでは精製されず、また、溶解度の問題から、通常のODS-HPLCカラムでの精製は困難なことが判明した。各種条件を検討した結果、反応溶液を直接、逆相系のオープンカラムであるクロマトレックスカラムに負荷し、大量の水で未反応物等を洗浄後、メタノール/水/酢酸の混合溶媒で溶出させたのち、得られた画分をODS-HPLCカラムで分取することで、生理的条件下で生成することが確認されているデオキシアデノシン(dA)付加体LDAを、mg量単離精製することが可能となった。LDAは、各種NMRの結果から、Lのヒドロキシメチル基がdAの6位のアミノ基と脱水縮合した結果生じた付加体であることが推定された。6位のアミノ基は、DNAの塩基対水素結合に直接関与する部位であり、今回得られた付加体は、Lの強い変異原性や遺伝毒性を直接説明するものとして興味深い。また、これまでの、塩基付加体の結果では、DNAの塩基対水素結合に関与する部位と縮合した付加体は得られておらず、塩基とヌクレオシドの求核反応性の差がでたものと考えられる。LDAとほぼ同様の方法で単離された、ダオキシグアノシン(dG)付加体は、LDAと異なり、NMRにおいて糖部に反応するシグナルが完全には検出されず、また、各種試みたMSの測定結果からも、LDA同様の脱水縮合付加体に対応する分子イオンピークが検出されず、dG付加体は、縮合後に糖部で開裂反応をおこしたものである可能性が考えられるが、現在検討中である。
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