ハチ毒由来の走化性ペプチドI-CP、ならびにそのN末端より7残基目のProをLysに置換した[Lys7]I-CPについて、モルモット腹腔より採取した好中球に対する作用の解析を行い、1)-4)の結果を得た。 1)化学走化性を検討した(Boyden法による)ところ、I-CP、[Lys7]I-CPのいずれも好中球に走化性を惹起させた。活性の用量作用曲線は、コントロールに用いたformyl-Met-Leu-Phe(FMLP)と同様ベル型となり、最大作用を示すペプチド濃度はI-CP、[Lys7]I-CPともに約1x10^<-6>M(FMLPは約1x10^<-8>M)であった。 2)活性酸素の産生能(チトクロームc法による)を、また、好中球内からのglucosaminidaseの放出(を基質として測定)を検討したところ、I-CPとFMLPが活性酸素の産生と酵素の放出を促したのに対して、[Lys7]I-CPはどちらの生物活性も示さなかった。また、好中球をIAP(百日咳毒素)前処理したあとペプチドを添加すると、I-CPやFMLPによる活性酸素の産生や酵素の放出は著しく低下した。 3)好中球をI-CP、[Lsy7]I-CP、FMLPで刺激すると、数秒以内に細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が観察された。ただし、FMLP刺激では上昇した細胞内カルシウムイオンレベルが持続的に維持されたのに対し、[Lys7]I-CPでは持続性の弱い(一過性の)カルシウムイオン濃度の上昇であった。I-CPは、この中間と見られるカルシウムイオン動員のパターンを示した。 4)好中球をIAP(百日咳毒素)前処理したあとペプチドを添加すると、I-CPやFMLPでは立ち上がりの緩やかな細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が観察されたのに対して、[Lys7]I-CPでは細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が全く起こらなかった。 [Lys7]I-CPは‘走化性だけを示す'ことから、走化性発現に必要とされる細胞内情法伝達機構の解析に有用であると期待される。本研究では、[Lys7]I-CPによる細胞内カルシウムイオン動員が他と異なっていることが明らかとなった。今後、さらに検討を加えていくつもりである。
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