鉄ポルフィリン錯体(ヘム)は酸素や過酸化水素を用いて種々の基質を酸化できる能力を持つ。このようなヘム錯体の性質を利用して核酸の酸化反応を行えば、核酸のヌクレオチド結合を酸化的に開裂させ、切断へと導くことができる。これまで、ヘムの基質酸化活性に関して多くの研究が行われてきたが、それらのほとんどは有機溶媒中におけるものであった。そこでまず水溶液中におけるヘムの酸化活性について検討した。フェロシアン化カリを基質として酸化活性に対するpHの影響について調べた結果、アルカリ性にすると活性が著しく上昇することがわかった。この現象は、酸化型ヘムの軸配位子が水酸基となることと強く関係していたことから、酸化活性発現のためには水酸基の配位が必須であると結論した。また、酸化活性に対するイミダゾール塩基の効果について調べた結果、より電子供与性の強い塩基ほど活性を上昇させることがわかった。これは、イミダゾール塩基のヘム鉄への配位により、トランス位に配位している酸素原子を活性化するためであると考えられた。 次に、ヘムの周辺置換基にアクリジン色素を2分子結合させた化合物を合成し、これと核酸との結合機序について調べた。アクリジン系色素は核酸のGC塩基対と高い親和性をもつことをすでに明らかにしており、これを2分子導入した化合物はGC塩基の繰り返し配列に対して高い親和性を持つことが期待される。サケ精巣核酸に対するこの化合物の結合定数は、アクリジン単独の場合と比べて数倍大きくなっており、この化合物が核酸に対して高い親和性を持つことがわかった。また、塩基あたりの結合サイト数を見積もった結果、アクリジンに比べて約1000分の1に減少していることがわかった。このことは、この化合物が核酸中のある特定の塩基配列を認識していることを示し、アクリジン部分によって核酸に2点で結合したためであると考えられた。
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