研究概要 |
胃H^+,K^+-ATPaseは胃酸の分泌の最終段階に携わるプロトンポンプである。H^+,K^+-ATPaseの構成サブユニット(α、β)については、そのアミノ酸一次構造が明らかになり、そのトポロジーや高次構造についての情報も増えつつある。しかしながら、その発現系の構築が困難なことが大きな障害となって、これまでH^+,K^+-ATPaseの構造と機能との相関、とりわけイオンの認識、輸送にかかわる構造、ATPの加水分解とイオンの能動輸送の共役に携わる構造についてはほとんど研究が進んでいなかった。また、最近、胃H^+,K^+-ATPaseと同じファミリーに属するプロトンポンプが大腸、腎臓などに存在することが明らかになった。そこで本年度は、胃および大腸のH^+,K^+-ATPaseの発現系の開発を中心に研究を進めた。われわれはウサギの胃粘膜からH^+,K^+-ATPase α、βサブユニットのcDNAを単離して、その5′非翻訳領域の一部を取り除いた後、哺乳類の発現ベクターに組み込んだ。これをヒト腎臓由来の培養細胞に導入すると、H^+,K^+-ATPaseとしての機能が発現され、その特異的な阻害剤であるSCH28080やScopadulcic acid Bによって濃度依存的に阻害された。また、モルモットの大腸から得られた"腸型"のH^+,K^+-ATPaseについては、βサブユニットのcDNAのクローニングに成功していないため、大腸のH^+,K^+-ATPaseのαサブユニットと胃H^+,K^+ATPaseのβサブユニットのcDNAを細胞に導入して、ハイブリッドATPaseたんぱく質を発現させることに成功した。次年度以降は、これらの系を用いて、部位特異的変異の導入、キメラATPaseを作成するなどして、引き続きこれらATPaseの構造と機能との関連を研究する予定である。
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