研究概要 |
小腸には多数の絨毛があり、上皮細胞は絨毛に沿ってcryptからvillusへと移動する間に分化し、形態的、機能的に大きな変貌を遂げる。本研究では上皮細胞の分化と刷子縁膜ジペプチド輸送活性の発現との関連性について明らかにすることを目的として、小腸上皮細胞をcrypt-villus軸および十二指腸-回腸に添って分離し、各細胞画分におけるジペプチド輸送特性および活性の分布について検討した。 セフラジン等の経口用β-ラクタム抗生物質は、小腸刷子縁膜においてH^+/ジペプチド共輸送系を介して輸送されることが膜小胞系等を用いた研究から明らかにされている(プロトン勾配駆動型薬物能動輸送)。そこでまずセフラジンを基質として用い、家兎小腸からWeiser法によって単離したcrypt-villus細胞における輸送活性の分布について検討した。その結果、villus tip,mid villusでは高いH^+/ジペプチド共輸送活性が認められたが、cryptでは活性が認められなかった。従って、cryptではH^+/ジペプチド共輸送系は未だ合成されておらず、細胞がvillusの方へ移動し分化が進むにつれて輸送系が合成され活性が発現するものと考えられた。また十二指腸-回腸のvillus細胞では、十二指腸で最も活性が高く、空腸、回腸と下部になるほど活性は低下した。この様に同じvillus部分でも消化管の部位によってH^+/ジペプチド共輸送系の活性発現の程度が異なることが示された。これらの結果より、H^+/ジペプチド共輸送系は小腸上皮細胞内への経口用β-ラクタム抗生物質の能動的な取り込み、ひいては消化管吸収に重要な役割を果たしていること、この輸送系は細胞の分化にともなって活性が発現し、また消化管上部においてその活性が高いことが明らかとなった。
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