近年、遺伝子あるいはmRNA等に相補的な配列を持つアンチセンスDNAを細胞に送り込むアプローチが、癌やエイズなどの難治性疾患に対する遺伝子レベルでの新しい治療法として注目を集めている。現時点においては、ex vivoでこれらを標的細胞に導入した後、生体に戻す手段が中心に研究が進められているが、これら核酸を通常の医薬品と同様直接体内に投与し、標的細胞に選択的に送り込む方法論の確立が望まれている。しかしながら、核酸は生体内で極めて不安定であり細胞膜透過性、組織親和性等、多くの問題点を有するため、医薬品として実用化するためには、こうした問題点を克服することのできるデリバリーシステムの確立が必至と考えられる。本研究では、核酸医薬品の細胞特異的デリバリーシステムを開発することを最終目的に、まずプラスミドDNAおよびオリゴヌクレオチドの安定性、基本的な体内動態さらには細胞取り込み機構を検討した。これら核酸医薬品は、マウス静脈内投与後速やかに分解したが、この分解速度はマウス血液を用いたin vitro実験から予測されたよりも遥かに速く、in vivoでは血液プール以外でのコンパートメントで分解を受ける可能性が示唆された。また、投与された核酸は速やかに肝臓に取り込まれたが、種々の検討の結果、ポリアニオンを特異的に認識するスカベンジャーレセプターの関与が明らかとなった。以上の結果に基づき選択的な送達を実現し得る各種製剤学的修飾法として、cationic liposomeとの複合体の応用を試みた結果、本複合体投与によりin vivoでの遺伝子発現が達成できることが明らかとなった。以上のように、本研究の成果は核酸医薬品のデリバリーシステムを設計するための有用な基礎的情報を提供するものと思われる。
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