本研究では、老化に伴う脳神経系の機能低下とストレス蛋白質(hsp)との関係を探る手がかりを得るために、正常マウス(BDF1)とラット(F-344)および早期学習記憶障害を起こす老化促進マウス(SAM)P8系の脳についてストレス蛋白質遺伝子群の発現量の変化をmRNAあるいは蛋白質レベルで調べた。その結果、下記のことが明らかになった。 1. 正常ラットおよびマウスにおけるストレス蛋白質発現量の加齢変化 老若ラットの脳におけるhsp90とhsp70のmRNAおよび蛋白質発現量を比較したところ、hsp90とhsp70mRNA発現量は老齢で低下していたが、それぞれの蛋白質量には変化は認められなかった。なお、アクチンについては差は認められなかった。このことは、老齢の脳におけるストレス蛋白質mRNAの翻訳効率あるいは蛋白質の安定性が高まっている可能性を示している。一方、ユビキチンついては、BDF1マウスを用いて調べたところ老齢の脳に異常な高分子ユビキチン結合蛋白質が蓄積している事が明らかになった。アルツハイマー病患者の脳に見られる現象が、マウス脳でも起きている可能性がある。 2. 老化促進マウス脳部域別ストレス蛋白質の発現量の加齢変化 SAMP8マウス大脳のhspとアクチンの発現量の変動パターンは、正常老化を示すSAMR1マウスとほぼ同じであった。しかし、SAMP8マウスの脳幹と小脳においては、これらのmRNA発現量の変動がSAMR1マウスと比べて相対的に早い時期に起きていた。なお、グリセロアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼmRNAについては両系統で差は認められなかった。このようなSAMP8マウスの脳幹と小脳における遺伝子発現の変化は、正常な神経細胞の発達や機能維持に何らかの影響を与えているものと考えられる。
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