腫瘍壊死因子(TNF)は、腫瘍細胞に対してのみ、傷害性を示すサイトカインの一種であり、in vitroにおいてアポトーシスと呼ばれる特徴的な細胞死を引き起こす。私は、TNFの細胞傷害作用に対して感受性の高いマウス結合組織由来の腫瘍細胞L929より、TNF耐性株を複数単離し、その性状を解析したところ、これら耐性株では、アラキドン酸代謝系諸酵素の発現が低下していた。すなわち、耐性株のうちの一つであるC12細胞では、細胞質のホスホリパーゼA_2(PLA_2)活性が著しく低下しており、マウスの細胞質高分子量型PLA_2(cPLA_2)遺伝子を調製し、C12細胞に導入したところ、TNFに対する感受性が、遺伝子導入細胞において回復していることを確認している。今回新たに検討した耐性株C22では、cPLA_2の下流の酵素であるシクロオキシゲナーゼ1(Cox 1)の発現量が低下していた。興味深いことに、cPLA_2発現量が低下したC12細胞では、Cox 1の発現量はむしろ親株L929より増大していた。シクロオキシゲナーゼには、現在、静止時にも発現しているCox 1と種々の外来刺激によりその発現が一過的に上昇するCox 2の二種のアイソザイムが存在することが知られている。そこで、これらのTNF耐性株においてTNF刺激によるCox 2誘導を検討したところ、C12、C22細胞、いずれの耐性株においても、親株L929に見られるCox 2誘導が認められなかった。今後は、これらホスホリパーゼA_2の下流の酵素系が、TNFによるアポトーシス誘導に果たす役割について、さらに検討する予定である。
|