我々は、NIH3T3細胞のv-srcトランスフォーマントの細胞破砕液を用いたAキナーゼ、Cキナーゼ、srcファミリーのチロシンキナーゼ、カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIIの少なくとも4種のプロテインキナーゼ活性を検出できる系を開発し、細胞内シグナル伝達解析への応用を試みてきた。今年度は応用範囲を広げるため、まず増殖因子受容体型のチロシンキナーゼ活性の検出が可能かどうかを調べた。NIH3T3細胞の種々の癌遺伝子トランスフォーマントや各種ヒト癌細胞にこのアッセイ系を適用したが、受容体型のチロシンキナーゼ活性と、他のキナーゼ活性との同時検出には成功しなかった。現在細胞の種類、破砕方法等、受容体型チロシンキナーゼ活性同時検出のための条件検討をさらに行なっている。またこのアッセイ系は、プロテインキナーゼ阻害剤の探索系として適しており、選択性の高いプロテインキナーゼ阻害剤開発のため、この系を用いたスクリーニングを開始した。我々はこれまで、癌細胞の性質を正常様にする物質の探索やその作用機構の解析を行い、シグナル伝達研究に役立ててきた。今年度新たに、培養系における癌細胞の性質の中で造腫瘍性と最もよく相関するといわれる足場非依存性増殖を、96穴プレート中で、簡便、迅速、安価かつ定量的に測定できる方法を開発した(印刷中)。 この方法は足場非依存的に増殖している細胞の回収が容易であり、従来の軟寒天コロニー形成法では困難であった、生化学的解析が可能である。上記のキナーゼ活性測定法と組み合わせ、足場依存性の正常細胞と足場非依存性の癌細胞のシグナル伝達の違いを調べる予定である。
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