動物細胞のリン脂質は主として小胞体で生合成され、その後細胞内の各オルガネラに輸送されるがその輸送機構は現在不明であり、またリン脂質の生合成調節機構も殆ど明らかにされていない。我々は、CHO-K1細胞株を用いた遺伝生化学的研究からホスファチジルセリン(PS)脱炭酸酵素の活性がPSの生合成速度を調節している可能性を示唆した。本研究の目的は、PS脱炭酸酵素がどのようにしてPSの生合成速度を調節しているかを明らかにすることである。PS生合成速度とPS脱炭酸酵素はそれぞれ小胞体とミトコンドリアに存在することが示唆されていることから、本研究は、リン脂質の代謝調節及び細胞内輸送機構の解明という二つの面から重要であると思われる。本年度は、PS脱炭酸酵素自身の活性発現調節機構を調べる目的で、同酵素の成熟過程を解析し以下に述べることを明らかにした。1)PS脱炭酸酵素は、46kDaのタンパク質として生合成される。2)その後、ミトコンドリアに輸送され、ミトコンドリア移行シグナルの除去により36kDaのタンパク質へと変換される。3)36kDaタンパク質が、さらに切断されることにより、4kDaのαサブユニットと32kDaのβサブユニットから構成される成熟したPS脱炭酸酵素が生じる。4)PS脱炭酸酵素の成熟において378番目のセリン残基が非常に重要な役割を担っている。
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