《実験方法及び結果》 1.セリンプロテアーゼ インヒビターによる酵素様効果の阻害様式の検討 第VIII因子(F VIII)A2ドメイン(45kD鎖)にエピトープを有しA2ドメインを分解生成する酵素様効果が認められたインヒビターIgG(カプリル酸処理)に各種セリンプロテアーゼインヒビターを添加し、この酵素様効果の阻害について検討した。酵素様効果阻害の判定は、リコンビナントF VIII、IgGおよび各種プロテアーゼインヒビターを37℃、2時間混和反応後、5-15%SDS-PAGEで展開し、WB法でPVDF膜へ転写し、F VIIIフラグメンテーションをF VIIIモノクローナル抗体とケミルミネッセンス試薬(リミフォス530)でX線フィルム上に可視化して行った。使用したセリンプロテアーゼインヒビターとその濃度は、p-APMSF(400nM-40mM)、DFP(2uM-200mM)、Hirudin(0.001U/ml-100U/ml)、α1AT(1pM-100uM)、α1ACh(150pM-15uM)であった。α1ATは1nMで酵素様効果を阻害したのに対して、p-APMSF、DFP、Hirudin、α1Achはそれぞれ40uM、2uM、10U/ml、1.5uMとα1ATに比較して高濃度が要求された。この結果からトリプシン様プロテアーゼの存在が示唆された。 2.トリプシン様プロテアーゼの存在証明 CNBr法でα1ATを固相化したセファロースビーズとIgGを反応させた後、その上清について酵素様効果を検討したところ、α1ATビーズ混和後の試料では、トリプシン様プロテアーゼ効果は消失した。この結果はIgG試料中にα1ATと結合するプロテアーゼが存在することを示唆した。 3.抗体純化による検討 カプリル酸処理のIgG試料をさらにProteinGセファロースカラムで純化精製した後は、トリプシン様プロテアーゼ効果は減少したが完全には消失しなかった。この結果はトリプシン様プロテアーゼがIgGと複合体を形成して存在することを示唆した。 《結論》 あるF VIIIインヒビターIgGはF VIII A2ドメインのみを解裂させるトリプシン様プロテアーゼと複合体を形成している可能性が示唆された。今後、このプロテアーゼの本体を純化、同定する必要があると考えられる。
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