研究概要 |
本研究では、19世紀イギリスの代表的思想家の一人であるハーバート・スペンサーの体育論の意義を単に彼の『教育論』の内容を分析するだけでなく、彼の思想体系全体及び歴史的背景を視野に入れて明らかにした。 『教育論』は、第1章「どのような知識が最も価値があるのか」において明確に提示された論理構造、特にその中心としての教育の目的及びその実現のための相対的価値基準に基づいて、教育の内容区分をし、そのそれぞれの内容を各章において論じているものである。ところで、この教育の目的及び相対的価値基準は、彼の思想の集大成としての『倫理学原理』において設定されている最高目的及びその実現のための相対的価値基準に対応しているのである。更に,『倫理学原理』が含まれる彼の総合哲学体系は、この目的及び価値基準にそって構成されており、この意味において『教育論』は総合哲学体系の方法論としての意味を有するのである。 『教育論』の特徴であり、特に体育論において「欲求」や「感覚」の重視として典型的に現れている、行為基準及び教育の方法として位置する「自然の重視」の意味もその思想的背景である倫理学との関連で明らかにした。その際、もう一つの特徴である「科学の重視」が、自然なものとしての「欲求」や「感覚」に対する正しい方向性を示すものとして「自然の重視」と表裏一体の関係にあることも明らかにした。 以上のように、スペンサーの体育論の理想的意義を明らかにするとともに、産業革命以降の歴史的状況、特に健康及び身体に対する当時の風潮から、『教育論』における体育論とそれ以外のところでの彼の体育に関する論述との相違の歴史的背景を明らかにした。
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