本研究は、前頭前野が運動行動及び運動に関する記憶についてラットを用いて従来の行動科学的分析のみばかりでなく、従来、長期記憶との関連性を指摘されていたNADPH-diaphorase(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型)が運動の短期記憶とも関連があるかについての化学的特性に関しても検討を行なった。 学習実験はラットを被験者としてラット用のT型迷路装置を用い、弁別学習及び学習の記憶の保持を課題として行った。実験は前頭前野を破壊するグループ(右側のみと両側)と破壊をしない統制群の3つに分けた。このように、実験は実験群2条件と統制群の1要因の実験計画に基づいて行った。実験は、各グループのラットとも13日間、制限給餌を徐々に行い慣れされていった。本実験開始時点で、ラットの体重は、平常時の85%〜80%になるように調節された。実験開始前に4日間の予備訓練を行い、刺激カードを押して目標箱に入ることを学習させた。その後、本学習のT型迷路学習装置を用いて、白-黒の弁別学習を7日間習得させた後、実験群のラットに関しては脳内のアミノ酸に関連したニューロンを破壊するカイニン酸を前頭前野に注入(2.5nmol)し局部的な破壊を行なった。破壊手術の3日後に、両群のラットともにもう一度、弁別学習を行ない、記憶の忘却度に関して調べた。その結果、手術3日直後での忘却度においては各グループ間に差はなかったが、その後の追学習において右側にのみカイニン酸を注入したラットは学習効果はあがらず、むしろ忘却が認められた。また、記憶実験後、実験群のラットの脳を除去し、海馬、線条体におけるNADPH-diaphorase活性の分布状態を調べたところ、正常なラットの結果と差異はなかった。この結果、カイニン酸の注入による前頭前野の破壊によって行動レベルでの変化は見られたが、NADPH-diaphorase活性との関連は明確にされなかった。
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