本課題研究においては、映画のクローズド・キャプションからコンピュータに取り込んだ「文字データ」と、レーザーディスクの「映像・音声データ」を合わせた「映画コーパス」(映画約100時間分)の分析により、コンテクストに依存した「発話の意図」の理解がコミュニケーションの成立に大きく関わることを明らかにした。特に皮肉や比喩などの「言外の意味」を持った語句の使用では、声の調子や顔の表情が大きな役割を果たしていることを指摘し、実際の場面に見られる「身体言語」や「パラ言語」を伴った語彙能力をつける「立体的」な指導法を提案した。生きた英語のコーパスを扱う以上、その発話理解には語用論的な言語の扱い方が不可欠であるため、提案した指導法を「語用論(的)アプローチ」と呼ぶ。従来の語彙指導法と比べ、意味の扱いを文字どおりの「意味論」的なものから、コンテクストを重視した「語用論」的なものへと移行させている。この指導法はマルチメディアへの対応を視野に入れた、いわばテクノロジーの成果を言語教育に応用したものではあるが、言語使用者としての人間的側面を扱う語用論を基盤とし、映画教材のモデルを全身感覚を動員して模倣することから始める、極めて人間的な指導法であると言える。 本研究の成果は大学生の英語コミュニケーション欲求を満たすものであると同時に、高等学校のオーラル・コミュニケーションの授業にも応用可能であると考えられる。今後の課題としては、指導に用いるコンテクストの量をどの程度にするか、検索スピードをどう改善するか、というソフト・ハード両面にわたる問題が残されている。さらなる研究が必要と思われる。
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