研究概要 |
縮合型多環状エーテル系天然物は、生合成的にはポリエポキシドが開環すると同時に、連続的にエーテル環が構築されたと推定されている。本申請者は、実際に人工合成する上でも、生合成類似経路で連続閉環させる方法が効率的であると考え、これを鍵とする合成法の開発を目的に研究を開始した。連続閉環の基質としてポリエポキシアルコールを想定すると、閉環の方向はendoとexoの2通り考えられる。目的の縮合型エーテルを得る場合、endo-優先的な閉環が必要なので、いかにBaldwin則に逆らうかが問題となる。そこで、連続環化を行う前段階としてこの問題に焦点を絞り、まず単環の構築を検討した。エポキシアルコールの閉環の方向は、エポキシドの開環の方向で決定されるので、directing groupとしてエーテル性置換基を用い、Lewis酸をエポキシドの酸素との間にキレートさせて開裂の方向を制御する方法をとった。 基質となるcisおよびtransの4-メトキシメチル-4,5-エポキシ-1-ヘキセノールは、3-クロロプロパノールを出発物としてそれぞれ簡便に合成できた。次に、種々のLewis酸を用いて分子内閉環反応を検討したところ、カンファスルホン酸や、BF_3・OEt_2ではexo還化したテトラヒドロフラン誘導体のみが得られた。TiCl_4やランタノイド系のCeCl_3を用いるといずれもクロロ付加体が優先したが、得られた少量のエーテル環化体は、前者はexo体のみであったのに対し、後者はendoとexo環化が1:1の比率で進行していた。そこで求核力のない配位子を持つ同じランタノイド系のルイス酸としてLa(OTf)_3を用いたところ、無水条件ではexo環化が優先したが、2当量の水の添加により4:1〜9:1の比率で望むanti-Baldwin(endo)環化体を優先的に得ることができた。以上の結果は、キレーションコントロールでエポキシアルコールのanti-Baldowin環化が可能であることを示した最初の例であると同時に、最終目的の連続閉環反応への道を開くものである。
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