牛副腎皮質束・網状層の初代培養細胞をカルシウム感受性蛍光色素で染色し、カルシウム応答を観察した。細胞集団を用いた測定では、ATPで刺激する前は細胞内カルシウム濃度は約200nMであり、刺激後は最大で約300nMになった。刺激後速やかに最大値に到達した後徐々に減少し、約1分後に約240nMで一定値に達した。個々の細胞で観察すると、ATPやACTHの刺激に対しカルシウム応答を起こす細胞と起こさない細胞とが存在し、カルシウム応答を起こす細胞は全体の1割程度であった。 カルシウム応答がステロイドホルモン合成とどうような関係を持つか調べるために、コレステロールプールである細胞内脂肪顆粒の分布、ステロイドホルモン合成酵素である3β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素、シトクロムP450c21、シトクロムP450sccの細胞内分布を観察した。驚くべきことに、カルシウム応答をする細胞ではコレステロールを蓄える脂肪顆粒も、上記の3種類のステロイドホルモン合成酵素も殆ど認められず、逆にこれらはカルシウム応答をしない細胞において顕著に認められ、この性質は刺激物質の種類にはよらなかった。 次に、コルチゾールを定量してカルシウムがステロイドホルモンの合成に果たす役割を調べると、細胞外カルシウムの流入はステロイド産生に重要な役割を持つことがわかった。 以上の結果から、カルシウム応答をする細胞では直接ステロイドホルモンを合成していないものの、この細胞はカルシウム応答をしないステロイドホルモンを合成する細胞に何らかの影響を与えるステロイドホルモン合成を促進しているのかもしれないと考えられる。
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