細菌鞭毛モーターは、細胞膜を横切るイオン流を鞭毛の回転運動に変換する分子機械である。Na^+駆動型モーターは生体エネルギー論的解析には有利だが、遺伝学的・生化学的解析はあまり進んでいない。そこで、私は、海洋性ビブリオ菌のNa^+駆動型極毛モーターの遺伝子レベルでの解析を行う目的で、エレクトロポレーションを用いてVibrio alginolyticus(腸炎ビブリオ菌の近縁種で病原性がない)にプラスミドを比較的効率よく移入する手法を確立した(平成5年度)。また、この菌から極毛形成能、回転能または走化性応答能の欠損した突然変異体を多数単離した。本年度は、(1)上述の突然変異株の性質を解析するとともに、(2)極毛形成に必須な遺伝子(pof:polar flagellation)と回転に必須な遺伝子(pom:polar flagellar motility)のクローン化に成功した。 (1)二種類の鞭毛の一方を欠損した株の解析から、V.alginolyticusにおいても腸炎ビブリオ菌と同様、極毛はNa^+駆動型、側毛はH^+駆動型のモーターをもつことがわかった。また、二種類の鞭毛の機能分化に関して、鞭毛回転の粘性に対する抵抗性やそれぞれの鞭毛による走化性制御システムが異なることが示された。 (2)一つのpof遺伝子と二つのpom遺伝子をクローン化し、pof遺伝子の塩基配列を決定した。その推定アミノ酸配列は大腸菌などのRNAポリメラーゼσ^<54>因子とよく似ている。腸炎ビブリオ菌でσ^<28>因子が側毛形成遺伝子発現に働くことを考え合わせると、二種類の鞭毛遺伝子の発現に別種のσ因子が働く可能性があり、興味深い。本年度には、McCarterにより、腸炎ビブリオ菌でも極毛回転に必須な遺伝子(motXとmotY)が同定された。上述のpom遺伝子の一方はmotY変異を相補したが、他方はいずれの変異も相補せず、新しいナトリウム駆動型モーター遺伝子である可能性が高い。 これらの成果については、現在投稿中((1))または投稿準備中((1)、(2))である。
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