コムギヒストンH3遺伝子のS期特異的転写を規定するシス配列タイプIエレメントは、ヘキサマー配列とオクタマ-配列というそれぞれ転写に正に働く2つの独立したシス制御配列から構成されている。このヘキサマー配列に結合する転写因子HBP-laのアミノ酸1-115の領域をGAL4のDNA結合領域につないで活性を調べると、リポーター遺伝子の発現を抑制するが、この領域を2分割したN末側[5-56]およびC末側[58-115]のそれぞれの領域はプロモーター活性を上昇させる。この領域はプロリン残基に富み、植物の転写因子のひとつであるGBF1の転写活性化領域と比較的良く似ている。そこで両転写因子の転写活性化領域に共通して存在するアミノ酸配列に注目し、その中のプロリン残基の幾つかを他のアミノ酸に置換して、この領域の機能に与える影響を調べた。また、リン酸化の標的になり得るセリン残基やスレオニン残基の幾つかについても同様に他のアミノ酸に置換し、その変化が及ぼす影響を調べた。以下に結果の概要を示す。 1)アミノ酸[5-56]領域はプロモーター活性を上昇させることがすでに分かっていたが、この領域を更に2分割した[5-29]と[30-56]のそれぞれの領域が、単独でプロモーター活性を上昇させ得ることが分かった。その活性化能は、それぞれ[5-56]領域の約半分の活性であった。 2)様々なアミノ酸変異体を作製してその活性を調べたが、プロモーター活性化(或は抑制化)に重要な関わりを持つアミノ酸を同定することは出来なかった。 本研究の当初の目的であった転写因子の機能に関わるアミノ酸モチーフの同定に関しては、上記2)で述べた様にその目的が達せられなかったが、この結果および上記1)の結果から、転写因子HBP-laの転写調節機能ドメインは構造的に柔軟性に富んでおり、また、機能的にredundantな複数のmoduleによって構成されていることが示唆された。
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