マイコプラズマの染色体複製開始点の近傍における複製反応進行の過程を、neutral/neutralとneutral/alkalineの二つの二次元電気泳動法を用いて詳細に解析した。その結果、複製フォークはdnaA遺伝子の3'端側とその下流の非転写領域とからなる875塩基対の領域の中で形成され、両方向に進行することが明らかになった。この875塩基対の領域中には配列から予想されるDnaA-boxが存在せず、この領域に最も近いDnaA-boxでも約600塩基対離れたところに存在する。このことはマイコプラズマにおいてDnaA蛋白質が起こした張力の変化がDNA上を約600塩基伝わった後にDNAの融解を誘導しているか、あるいはDnaA蛋白質によってDNA鎖に結合したヘリカーゼが600塩基対移動してから新生鎖の合成が始まることを示唆する。このことはマイコプラズマの染色体のAT含量が複製開始点近辺で79%と高いことと無関係ではないと考えられる。本研究はさらに新生鎖の伸長の過程を解析することによって、左右のフォーク進行が非対称であること、すなわち複製フォークはdnaA遺伝子の下流側へはそのまま、上流側へは約1000塩基対の遅い動きを経てから進行していくことを明らかにした。いくつかの例で複製フォークと向かい合った強い転写がフォークをブロックすることが知られている。そこでこのフォークの進行速度が変化する位置の近辺にフォークに対面する強い転写活性がある可能性を検討したが、そのような活性は見当たらなかった。その代わりこの位置には配列から予想されるDnaA-boxがクラスターとして存在していた。これらのことは新生鎖の合成が始まった後にもDnaA蛋白質がDNA上に残ってフォークをブロックする可能性を示唆する。これまでDnaA蛋白質が複製開始を起こした後にどの様にDNAから解離するかについて検討されたことはなかった。本研究は間接的ではあるがこの過程を見た最初の研究かも知れない。
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