ラッフル膜形成の分子機構を明らかにするべく、主に培養線維芽細胞(Swiss3T3細胞)及びヒトあるいはブタの好中球を用いて実験を行った。 コンフルエントにした後血清濃度を下げて静止期に同調させた線維芽細胞に、蛍光標識したコフィリンとアクチンを同時にマイクロインジョエクションにより導入したところ、両者は既存の細胞骨格に組み込まれることなく細胞質中に分散して存在した。しかし、インジェクションした細胞のまわりに存在する細胞をはぎ取ることによって再活性化すると、細胞は速やかにラッフル膜を形成し移動し始めるようになる。このとき導入された蛍光標識コフィリン及びアクチンはどちらもラッフル膜に移行し、非常によく一致した局在を示すことが見出された。また、培養液中にNa-H-ポンプの阻害剤であるアミロライドを加えておくとラッフル膜の形成が阻害され、同時にアクチンとコフィリンの局在化も見られなくなった。この結果からラッフル膜の形成には細胞内pHの上昇が必要であることが示唆された。 一方、好中球をfMLPやTPAで活性化すると、非常に速やかに細胞の変形が起こり、ラッフル膜を形成する。この時、コフィリンの著しい脱リン酸化が起こりラッフル膜へ局在するようになる。リン酸化されたコフィリンはアクチンへの結合能を失うことに既に見出しており、ラッフル膜の形成には活性のあるコフィリンが必要であることが示唆される。そこでフォスファターゼの阻害剤であるオカダ酸やカリキュリンAを加えたところ、これらの添加のみでコフィリオンの脱リン酸化が誘導された。しかしそのレベルはTPA処理によるそれとは異なり、完全な脱リン酸化には至らず、TPAなどにより活性化するとさらに脱リン酸化が起こった。このTPAによる脱リン酸化は10μMのオカダ酸を加えた時にのみ抑制されたことから、コフィリンの脱リン酸化を行っているのはタイプBのフォスファターゼであり、タイプ1や2Aはコフィリンをリン酸化するキナーゼの活性繊維に働いていると考えられる。
|