多くの動物において初期胚特異的なヒストンH1のサブタイプが存在するが、その生理的意義は不明である。本研究では、初期胚においてはS期が著しく短いことに着目し、アフリカツメガエル卵の遠心抽出細胞質による無細胞系を用いてH1サブタイプが異なるときのDNA複製速度を定量的に解析した。その結果、以下の点が明らかになった。 (1)成熟卵から調製した卵抽出液に界面活性剤処理した精子を加えてインキュベートし、核の形成およびDNA複製を誘起する系を確立した。この系におけるDNA複製量を、ラベルしたdATPの取り組み量によって定量化した。種々の精子濃度、インキュベーション時間における複製量を定量的に解析した結果、1x10^7精子/ml以下、1〜4時間後においては、DNA複製量は精子濃度およびインキュベーション時間に比例して増加した。そこで、1x10^6精子/ml、2〜3時間におけるdATPの取り込み量によりDNA複製速度を定量化した。 (2)ツメガエル赤血球核から2Mの塩で抽出したクロマチン蛋白質にたいし、MonoSを用いてイオン交換クロマトグラフィーを行ったところ、体細胞に一般的なH1サブタイプであるH1A/Bと赤血球特異的なサブタイプであるH5が分離された。また、卵抽出液で形成された核から、同様に、初期胚特異的なサブタイプであるH1Xが精製された。 (3)卵抽出液にはH1サブタイプはH1Xしか含まれていない。そこで、抗H1X抗体を用いて卵抽出液からH1Xを除去し、これに上記の各H1サブタイプを加え、各々におけるDNA複製速度を調べた。その結果、H1X除去抽出液および、これにH1XまたはH1A/Bを加えた抽出液では、対照の卵抽出液と同程度の複製がみられたが、H1X除去後にH5を加えたものでは、著しい複製速度の減少がみられた。 以上の結果から、ヒストンH1は核のDNA複製において必須の役割を果たしているわけではないが、複製速度の制御に対し、調節的に関与している可能性が示唆された。
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