ホヤの出芽においては、消化器官、神経腺など多くの組織・器官が分化多能性の囲鰓腔上皮の分化転換によって生じる。レチノイン酸(RA)は囲鰓腔上皮の脱分化を誘導し、芽体前後軸の決定に関与する内在性因子と考えられている。本研究では、RA合成酵素であるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)、RA受容体(RAR)、多くの動物でパターン形成に関与するホメオボックス遺伝子の分子クローニングと発現解析を行った。PCR法によって、750bpのALDH遺伝子断片を30クローン、169bpのRAR DNA結合ドメインのcDNA断片を2クローン、76bpのホメオボックス遺伝子断片を8クローン単離した。 1.ホヤのALDH遺伝子断片各クローンから合成したプローブを用いてノザン解析を行ったところ、2種類のALDH遺伝子が親と芽体で発現していることが分かった。芽体発生に伴う発現量の変化はなかった。これらのうち一方はマウスのRA合成酵母AHD-2とよく似たアミノ酸配列を持つことが分かった。 2.ホヤのRAR DNA結合ドメインのcDNA断片から予想されるアミノ酸配列は脊椎動物のRARと85%程度の類似性を示し、他の核内ホルモン受容体との類似性は比較的低かった。Zincフィンガーの形成に必須のシステインも完全に保存されていた。また標的塩基配列の認識を担うアミノ酸配列も脊椎動物のRARと同じタイプであった。RT-PCR解析を行ったところ、親と発生初期の芽体ではmRNAの発現が見られず、囲鰓腔上皮の脱分化が始まる発生開始12時間以降の芽体で発現が見られた。 3.ホヤのホメオボックス遺伝子の断片8クローンの中にはAntennapediaや、脊椎動物でRAによる発現制御を受けているlabialなどのように、前後軸パターンの形成に関与するHOM/Hoxタイプの遺伝子のホモログと思われるものがあった。RT-PCR解析により、これらのクローンに対応する遺伝子が親と芽体で発現していることが分かった。Antennapediaタイプの遺伝子についてはRACE法により3'末端側約400bpのcDNAをクローニングした。
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