アルツハイマー病患者脳に蓄積するPHFタウを精製し、これまで未同定であったtau1及びC末端領域の異常リン酸化部位を蛋白化学的に解析した。精製PHFタウをプロテアーゼ消化し、tau1、C末端領域のペプチド得た後、これらをさらに固定化トリプシン等で小断片化して逆相HPLCで展開した。この際に胎児型タウを同様の処理をして比較対照とすることにより、非胎児型の異常リン酸化ペプチドを区別した。PHFタウに特異的なピークに注目しながら、得られたすべてのピークについてアミノ酸配列分析、及びイオンスプレー質量分析を行ない、リン酸化部位を同定した。アミノ酸配列分析はペプチドをアルカリ条件下でエタンチオール処理し、リン酸化セリンをS-エチルシステインに変換して行なうことで、リン酸化セリンをポジティブシグナルとして検出した。その結果、ヒトタウの最も長い分子種の配列番号に従って198、199、202、208、210、214、396、400、404、409、412、413、422番目のセリン、及び212、217、403番目のトレオニンがリン酸化されていることが明らかとなった。これまで同定されていた3箇所を加えて合計19箇所の部位のリン酸化が同定されたことになるが、このうち11箇所の部位は胎児型タウにも検出される部位であった。それ以外の8箇所はPHFタウに特異的なリン酸化部位と考えられた。このような非胎児型のリン酸化部位はセリン/トレオニン-プロリンという配列をもつ、いわゆるプロリン指向性キナーゼの認識部位とそうでない部位があり、非胎児型の異常リン酸化にも複数のキナーゼが関与していることが示唆された。
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