本研究の目的は、神経伝達物質放出のモデル系として培養牛副腎クロム親和細胞(leaky細胞)を用いて、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)の作用機序を明らかにして、その基質であるミオシン及びアクチンを始めとする細胞骨格系蛋白質の開口放出における役割を明確にすることである。界面活性剤であるジギトニン処理により高透過性化したクロム親和細胞(leaky細胞)を用いて、カテコールアミン放出測定実験、及び組織化学的実験を行い、以下の結果を得た。 (1)ミオシン軽鎖キナーゼの特異阻害剤(wortmannin)と活性阻害ペプチド(SM-1)を細胞を用いてleaky細胞からのCa^<2+>依存性カテコールアミン放出の変化を測定したところ、ATP依存性放出が顕著に抑制された。測定解析の結果、MLCKは開口放出機構のうち、ATP依存性プライミング過程の必須因子であることが明らかになった。 (2)MLCKによってリン酸化されたミオシンは次のステップとして、アクチンと相互作用をもつことによりアクチンを活性化することが知られている。そこで、wortmanninによるMLCKの阻害によって開口放出を阻害したときのアクチン・ネットワークの変動を蛍光組織化学法により測定解析した。Control細胞では、細胞膜直下にリング状に濃いアクチン層が観察されるが、Ca^<2+>刺激後ではアクチン層の切断、欠落が観察された。一方、Wortmanninで前処理すると、細胞膜直下のアクチン層の切断、消失が観察され、その後Ca^<2+>刺激を行っても変化が見られなかった。これらの結果から、アクチン-ミオシン相互作用の阻害により細胞膜直下のアクチン層の形成が阻害されること、さらにアクチン・ネットワークが顆粒の形質膜への接近を妨げるバリヤ-としての役割以外に、顆粒のプライミングに重要な役割を持つことが示唆された。今後更にこの解析を進めることは、開口放出のプライミングの分子機構の解明に非常に重要であると思われる。
|