ヒポカルシンは、申請者らが見い出した大脳の海馬に特徴的に存在する神経特異的カルシウム結合蛋白質で、カルシウム濃度の生理的変動を感知して神経細胞内の情報伝達系の効率を調節していると考えられている。そこで、ヒポカルシンがカルシウム依存性に制御する細胞内情報伝達系を同定することを目的とした。 1)ロドプシンのリン酸化に対するヒポカルシンの作用 網膜視細胞に存在するヒポカルシン類似蛋白質:S-モジュリンは、高カルシウム濃度でロドプシンのリン酸化を抑制することで、光刺激に対する感受性を調節している。そこで、網膜視細胞外節画分を用いたin vitroの再構成系で検討したところ、光刺激した際のロドプシンのリン酸化を、ヒポカルシンはS-モジュリンと同程度に抑制することが明らかとなった。以上の結果から、ヒポカルシンが神経細胞に存在する、ロドプシンと構造の類似する受容体のリン酸化を調節している可能性が示唆された。 2)ヒポカルシン結合蛋白質の検索 ラット脳について、ヒポカルシンとカルシウム存在下に特異的に結合する蛋白質をフィルター・オーバーレイ法で検索したところ、数種類の蛋白質バンドが見い出された。このうち、ヒポカルシンと最も高い親和性を示す分子量約48kDaの可溶性蛋白質を精製し、部分アミノ酸配列を決定したところ、ラットのクレアチン・キナーゼBサブユニットの配列と一致した。 既にヒポカルシン遺伝子導入細胞を得ており、今後、ロドプシンと構造の類似する神経細胞の受容体のリン酸化および受容体機能に対するヒポカルシンの作用を検討する。
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