申請者はグリア細胞や神経細胞での種々のサイトカイン受容体の発現を調べる過程でマウス神経細胞株N18を分化誘導するとインターロイキン6(IL6)受容体の発現が誘導されることを発見した。そこで本研究は神経細胞の分化や生存、維持におけるIL6の役割を調べるためにマウス神経細胞株N18をジブチリルcAMP、フォルボールエステル、レチノイン酸、NGF、サイトカイン類などで処理しIL6受容体の発現の変化について調べた。N18は調べたうちのジブチリルcAMPで分化誘導を受けるとIL6受容体の発現が増大した。レチノイン酸とLIFでは弱い突起形成作用があるもののIL6受容体の発現の増大はほとんどみられなかった。これらの因子は血清除去によるN18の細胞死を抑制することもわかった。ジブチリルcAMP処理によりIL6受容体の発現が増大したN18にリコンビナントIL6を添加すると分化誘導に伴った増殖抑制効果が減少し、分化誘導していないN18と同程度の増殖能を示した。以上の結果からcAMPが関与する細胞内メカニズムによりN18神経細胞で分化誘導とIL6受容体の発現の増大が調節されていることがわかった。分化誘導時にIL6が存在すると未分化状態と同様の高い増殖能を保持できることもわかった。この生理的意味はまだわからないが、細胞死の調節メカニズムが細胞周期と関わりがあることから、神経発生の初期に増殖が止まり分化に向かう過程でみられる細胞死の調節に関与している可能性が考えられる。
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