侵害刺激はバゾプレシン分泌を増強し、恐怖刺激はバゾプレシン分泌を逆に抑圧する。一方、侵害刺激と恐怖刺激は視床下部内においてノルアドレナリンの放出を増加させる。従って、バゾプレシン分泌における侵害刺激と恐怖刺激に対する反応にノルアドレナリンが関与している可能性がある。本研究は、まずこの可能性を検証する目的で、ノルアドレナリン線維を特異的に破壊する神経毒素5-ADMPの効果を検討した。5-ADMPを脳室内に投与すると間脳におけるノルアドレナリンの含量は70%減少したがドーパミンの含量は有意には変化しなかった。5-ADMPを投与しノルアドレナリン線維を破壊すると、恐怖刺激に対するバゾプレシン分泌抑圧反応が観察されなくなった。一方、侵害刺激に対するバゾプレシン分泌増強反応は5-ADMPを投与した動物においても偽薬を投与した対照群と同様に誘発された。これらのデータは脳内のノルアドレナリンが、恐怖刺激に対するバゾプレシン分泌抑圧反応を引き起こしていることを示唆する。次に、脳幹部A2およびA1領域のノルアドレナリン細胞のうちバゾプレシン神経の細胞体がある視索上核に投射している神経が刺激により活性化されるか検討する方法の開発を目指した。この目的のため本実験においては、A2、A1細胞を活性化することが知られているCCKの末梢投与を刺激とし用い、Fos蛋白質とチロシンヒドロキシラーゼの免疫組織化学的検出法に逆行性トレーサーの視索上核内への微量注入法を組み合わせた三重染色をおこなった。この方法を用いると、視索上核に投射するA1あるいはA2カテコラミン細胞が刺激により活性化されるか検討することが可能になることが分かった。この三重染色法を用い恐怖刺激により活性化される細胞を同定することが次の課題である。
|