シナプス可塑性は学習・記憶の基本過程と考えられている。その分子メカニズムは、スライス標本やスライス培養標本を用いて、主にシナプス後膜を対象に詳しく調べられてきた。しかしながら、プレシナプスの関与する分子メカニズムについては、プレシナプスの形態が複雑かつ微小であるが故に解析が困難であった。一方、シナプス前膜のモデルとして培養神経細胞を用いるin vitroでの研究は、実験条件を容易に制御できるという特徴をもっており、可塑性におけるプレシナプスの分子メカニズムを探るためには非常に有効な手段と考えられている。本研究ではプレシナプスのモデル細胞であるPC12細胞を用いて以下のような結果を得た。 (1)PC12細胞に対して膜容量測定法、細胞内カルシウム濃度測定法、及びカルシウムケイジド試薬を用いて、細胞内カルシウム濃度の上昇後に起こる開口放出の細胞内カルシウム濃度依存性を明らかにした。開口放出が引き起こされるためのカルシウム濃度のいき値は約10〜20μMであった。また、カルシウム結合部位には4個以上のカルシウムが結合することも判った。(Neurosci.Res.1994) (2)PC12細胞にはNMDA感受性のグルタミン酸受容体が存在する。この受容体は他の神経細胞で報告されているNMDA受容体とは異なりカルシウムに対する透過性は無く、Clに対して透過性を有していた。更に、この受容体の活性化にはプレシナプスに局在している蛋白質の1つであるシンタキシンが関与している事も判った。(未発表) (3)PC12細胞にアセチルコリントランスフェラーゼの遺伝子を過剰発現させると、PC12細胞は刺激に対してアセチルコリンを放出するようになった。また、このような細胞からはアセチルコリンによるオートレセプター反応をホールセルパッチクランプ法により記録出来ることも判った。(未発表)
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