研究概要 |
本研究の目的は、視覚情報の保持に下側頭連合野のニューロンがどのように関与し、またどのような神経回路がその機能を実現しているのかを明らかにすることにあった。この目的のため、サルに視覚性記憶課題を行わせ、側頭葉前腹側部(側頭極皮質・嗅周囲皮質)およびTE野から、ニューロン活動を記録し解析した。この課題では、サルはモニターに呈示された写真を記憶し、2-5秒後に呈示される写真が記憶した写真と異なるか否かを正しく判断することが要求される。 記憶したニューロンのうち、225個のニューロンが記憶すべき写真に応答を示した。このうち30%(68個)のニューロンは、その後情報を保持していなければならない2-5秒の期間(遅延期)にも応答し続けた。この遅延期の持続的な応答は、1)記憶すべき写真に対する応答と強い相関を示す、2)記憶が不必要になるとその応答が止まる、という特徴を示した。このことは、遅延期の応答は視覚情報の保持を反映したものであることを示唆する。側頭葉前腹側部において遅延期の応答を示すニューロンがTE野より多く見つかり、情報の保持による重要であることを示唆する。これらの結果は、論文としてまとめた(Nakamura and Kubota,Journal of Neurophysiology,1995,in press). また、どのような神経回路が持続的な応答を実現しているのかを調べる目的で、スパイクの時系列パターンを解析した。まず、スパイク間隔を解析した。ニューロンが遅延期にランダムにスパイクを出しているのではなく、スパイクが高頻度で見られる期間と有為に少ない期間があることが示された。さらにスパイク列の自己相関を計算してみると、振動現象がみられた。このことは、スパイク群が一定間隔で繰り返し現れることを示す。振動現象は、1)遅延期の後半でより顕著になる、2)遅延期が長いほど顕著になる、という性質から、数秒以上にわたり情報を保持する神経回路の活動を反映したものである可能性がある。振動現象は、相互に興奮しあうニューロン群の結合による可能性が考えられる。結果の一部は、国際シポジウムで発表した(Kubota and Nakamura,1994)
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