本研究の究極の目的は脳性麻痺者(児)の使用する車椅子の最適条件を定量的に検討することにある。このためには(1)車椅子上での体幹の保持能力、(2)上肢運動機能という二つの車椅子使用者側の要素と、(3)左右側個別の車椅子駆動能力、(4)実際の車椅子走行時の駆動能力とそのスキルといった車椅子駆動能力を計測する必要がある。さらに、車椅子の最適性について検討するためにはこの(3)(4)が車椅子の寸法によりいかなる変化をするかについての情報が必要となる。本研究期間では被験者の上肢運動機能、左右個別の駆動能力、実際の車椅子走行時の駆動能力について検討した。上肢運動機能はサイベックスによる筋の等尺性および等速性運動時の関節トルクによって評価した。左右側個別の車椅子駆動能力は車椅子エルゴメータ上での車椅子駆動より得られた、駆動トルクと走行速度によって評価した。実際の走行能力は計測用車椅子を用いた直進走行試験から駆動トルクと走行速度によって評価した。以上の結果、実際の走行能力はこの左右の駆動能力の差がある程度小さい場合、キャスタの直進性によって左右差が吸収され、最大駆動能力で走行していた。しかし、この左右差が広がると弱いほうの駆動能力で走行していることが明かとなった。一部の症例では左右の駆動タイミングを調性することで左右の駆動能力の差に適応し、左右性あるにもかかわらず高い走行能力を発揮するものも見られた。以上より車椅子の寸法を変えることで上肢運動機能を最大限に発揮させ、駆動能力の左右差を低減させることや駆動タイミングをかえることが車椅子走行能力を向上させるための一方法となることが明らかとなった。今後さらに、上肢運動機能と駆動能力、駆動能力の左右差と実際の走行能力について検討を続ける予定である。
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