【緒論】現在肝移植が唯一の救命手段となっている重症の肝不全に対する治療の切り札として、装置内に生体の肝組織を組み込んだ、ハイブリッド型人工肝臓の開発が活発になされている。ハイブリッド型人工肝臓の開発のためには、肝細胞の高密度大量培養法の開発がその鍵となるが、研究代表者は多孔質の樹脂である。polyvinylformal(PVF)樹脂多孔質体を用いる肝細胞の高密度培養法について報告してきた。本研究では、培養肝細胞の機能をより良好に維持することを目的として、PVF樹脂の表面修飾が肝細胞の機能の維持に与える影響を検討した。 【実験方法】平均孔径が250μmのPVF樹脂を20×20×2mmに細切し、dish内に静置して培養に用いた。PVF樹脂をcollagenもしくはpoly-HEMA(hydroxyethylmcthacrylate)にてコートし、無処理の群と比較した。Wistar系雄性ラットから得た遊離肝細胞を4×10^6cells/PVFの濃度で播種して10日間の培養を行った。培地として10%fetal bovine serumを加えたWilliams′E培地を用いた。肝細胞の機能の指標として、アルブミン分泌能およびアンモニア代謝能の経時変化を測定した。また、PVF樹脂内に固定化された肝細胞密度の経時変化を測定した。 【結果と考察】アルブミン分泌能は、collagcnコート群では無処置群と比し、48hr以降ほぼ一定の良好な結果を示した。一方、poly-HEMA群では、経時的にアルブミン分泌能は低下した。一方、アンモニア代謝能は、3群ともほぼ同じ傾向で、培養時間の経過とともに低下した。一方、PVF樹脂内に固定化された肝細胞密度は、3群とも経時的に減少傾向を示したが、poly-HEMA群では当初から固定化細胞数が少なく、固定化効率に問題があるものと考えられた。Collagenコート群では無処置群よりやや良好な結果を示した。 PVF樹脂を用いる肝細胞培養において、PVF樹脂をcollagenでコートすることにより、肝細胞の代謝能が無処置のものと比較して良好に保たれる可能性が示唆された。今後、潅流培養法により、さらに高密度に肝細胞を培養し得る条件について検討が必要と思われる。
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