本研究は水晶発振子を用いたマイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance:QCM)法を利用し、体外循環中の各種化学物質量が連続計測可能なケミカルセンサシステムを開発することを目的としており、以下に今年度の研究成果を要約して示す。 QCM法の問題点である発振子表面へのタンパク質等、体液中における測定対象以外の各種混在物質の非特異的吸着を低減するためには、ポリマー表面に安定な生体膜類似構造を構築することが有効と考え、申請者らが開発を進めてきたリン脂資極性基を有する高生体適合性ポリマー:MPC共重合体を用い、当該ポリマーを被覆した水晶発振子(QC)を試作し、前記非特異的吸着の抑制効果を検討した。具体的には生体膜モデルとして広く用いられているリン脂資リポソーム(LP)をリン酸緩衝溶液(PBS)中で発振中のMPC被覆QC上に吸着させ、PBSの温度変化に伴うLPの相転移挙動を周波数変化から検討することにより、ポリマー表面上のリン脂資2分子膜の安定性を推定した。対照試料として代表的な含水ゲル型医用ポリマーであるポリHEMAを被覆したQCを用いて行った実験の結果、MPC被覆QCでは比較的狭い温度範囲(40〜42℃)で脂資2分子膜のゲル-液晶転移に基づくと考えられる周波数シフトが観察されたのに対して、ポリHEMA被覆QCでは当該温度範囲が39〜43℃程度に増加するという知見が得られた。この結果は、高度に膨潤した後者の表面においては当初吸着したLPの安定性が低く、これが分解して新たに生成された、より小さなLPやミセル等が混在していることを示唆するものと考えられる。この推論はLPの吸脱着挙動実験結果からも支持されるもので、MPC共重合体をQC表面に被覆することにより、生体膜類似構造を膜表面に安定に維持できることが明らかとなった。
|