今年度の研究成果の一部は、94年度の関西哲学会第47回大会(11月13日、福井大学 芦原研修会館)で、「ライプニッツの自然言語論」と題して報告しました(発表要旨22頁)。またこれと同名の論文が『アルケ-関西哲学会年報 No.3』にも掲載される予定です。ここで特に注目されるのは、通常18世紀後半に始まったとされる比較言語学の先駆者とも言えるライプニッツの多様な言語研究--語源学や不変化詞を軸にした文法論、音韻の比較などを含む--が、17世紀には旧約聖書に由来し、ヤ-コブ・ベ-メにより問題とされた「アダムの言語」と呼ばれる事物の本質に対応する原言語の形而上学的構想に関連している点です。これはプラトンの語るクラテュロスの言語説とも関係するものです。このアダムの言語については、一方では、それを今では失われた、ただ痕跡だけ残されているオノマトペのような最初の自然言語として把握する解釈方向と人間知性の普遍的能力としての生得観念に対応する普遍記号学と捉える二つの方向があります。いずれにしても、ライプニッツはそこで認識問題との関連で、語や記号の意味ないし意義を問題にし、双方でそれぞれ類比概念を構想し、そこからデカルト、ホッブズ、ロックなど、同時代の規約主義的言語哲学へ批判を加えることになります。この背景には、異なる自然言語の多様性を理解し、語の意味の生成・変化を説明する言語学的枠組みと同時に、それらの原理的な翻訳可能性を保証する形而上学的実在論とがあります。このような言語哲学と形而上学との対応が今回確認できたと言えます。
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