研究課題
本研究課題について平成6年度は、現代哲学における倫理学の位置という観点から、ハイデガ-に関して岡田が、またウィトゲンシュタインに関して関口が、それぞれ-学としての倫理学の不可能性の表明がそれ自体倫理的態度の表明であるという-その特異な位置づけを検討した。また、これに関連して神崎は、最近公刊された『プラトン:ソフィスト講義』に付されたアリストテレス『ニコマコス倫理学』におけるハイデガ-の:「思慮・実践知(phronesis)」の分析が、後にライルが自ら「ニコマコス化した霊魂論」と呼んだ『心の概念』やアンスコムの『インテンション』における行為の分析に通底し、それはまた「意識の志向性」から「行為の志向性」への転換という、まさにウィトゲンシュタインと問題関心を共有するものであり、しかもこれは(最近、R・ロ-ティが強調するのとは異なり)ある種の実在論的立場として解釈しうることを、C・ダイヤモンドやJ・マクダウェルを手がかりに、解明した。また実在論に関するより広範な問題に関して、M・ダメット教授による集中講義と講演の機会を通して、丹治を中心として、必ずしも倫理学の範囲に留まらない原理的な検討が加えられた。また、伊吹の著書の刊行により新約聖書における律法と価値の問題を中心に、今年度末には分担研究者を含めた参加者による書評会を兼ねた研究会が、もたれる予定である。以上の本年度の研究活動により、倫理学固有の領域における実在論の本格的な検討の準備は、充分整えられたと考える。
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