第3年度としては、東国の絵画-とくに仏画方面の調査を行った。これは第1・2年度の水墨画を主とした調査に、補足的に行ったものである。東国の中世仏画は西国に比べ、その数においてはかなり少なく、比較も難しい点が多いのだが、その相違が明確に把握できる部分もある。 調査寺院としては、その数量の多い下記の寺院が中心となった。金沢・称名寺、横浜・宝生寺、同・弘明寺、同・三会寺、平塚・芳盛寺、小田原・宝金剛寺、八王子・金剛寺などである。ほとんどが真言宗の大寺・談林所だが、それは同宗の法会において、今も中世からの仏画が連綿と用いられているためで、この傾向は西国でも同様である。 これらの東国仏画の中で、最も特徴的なのは、鎌倉地方を中心として根付いた宋風様式の導入である。これは仏像などにも言えることだが、形姿としては法衣垂下像という主尊の法衣が蓮台から垂下する形が多いこと、また高いもとどりや暗調の色調、容貌がやや細面で人間的な理知性を強調するところなど、共通して看取できる。さらには図像的な面でも相違点が指摘できるか否か、今後の課題である。 これら地域的な特異点がある反面、特に真言系の寺院は高野山から後世もたらされた作品も少なくないことで、東西仏画の文物交流が意外に密接であったことが窺われ、興味深いものがあった。このように東西様式の交流過程を考究する資料もかかなり残っていることが確認できたことは大きい。 なお、宝生寺については、その調査成果を本館の特別展「横浜の古寺・宝生寺の文化財」図録に、宝金剛寺は「おだわら-歴史と文化-」に、それぞれ公表した。
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