研究概要 |
生後第1年目の後半期の乳児を対象に行った実験(筒=トンネルの中にミニカ-を入れ、ハンマーで押し出す)を通して明らかにされた事実は、すでに報告した箱、棒、いちごの実験(乳児の大人の手への定位と事物操作の発達;女子栄養大学紀要,25,135-148,1994)と同様の以下の結果を得た。 (1)生後第1年目の乳児も大人の顔にしばしば定位する。6,7か月児では、とくに話しかける顔(声)に定位する割合が高い。手が動き出すと手を見、顔との見比べをする。月齢の高い乳児でも操作水準の低い試行では、大人が見本の行為を示しているにもかかわらず、顔に定位する割合が高く、また、実験者の手が止まった時顔を見ることが多い。操作水準の高い試行では、乳児は自分の行為の結果を確認するかの如く、大人の顔を見る。 母親の顔への定位は実験者よりも少ない。母親が話しかけた時、母親のことばに促されるかのように、活発に物とかかわるが、実験者が話しかけると、物とのかかわりを止め、実験者の顔を見ることが月齢の低い乳児や月齢が高くても、操作水準の低い試行で観察された。 (2)事物操作をしている大人の手への定位は動く手と関係がある。しかし生後第1年目の乳児の大人の手への定位はただ動くからではない。動く手と顔とを見比べ、そして手が与える物の変化を知覚し、変化する物と手とを関係づける。つぎに、その手の中の物と物とを関係づける。つまり人(顔)と手,手と物,手(物)と物を関係づけ、それがagent-objectの関係であり、因果関係でもあることを発見する。この発見が道具の使用へと導くものと考える。 (3)顔から手への移行については、まだ不十分なところが多い。平成8年度の課題である。しかしながら、以下に述べる事実が明らかにされた。 乳児の大人の顔から手への定位の移行は動く顔の追視と関係している。3,4か月児を対象に行った実験で、人形またはボールを50cmほど離れた左右の位置に移動させた時、手の動きではなく、顔や身体の動きを追視している乳児がいる。かれらは顔が移動し、止まるとそのばの手と見る。6,7か月児でも、トンネル,ミニカ-,ハンマーの実験で、実験者がトンネルにハンマーを入れる時、手ではなく手と同時に移動する顔、身体を追視し、実験者が出て来たミニカ-を呈示した時はじめて手(ミニカ-)に定位した乳児がいた。
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