基礎理論的研究を進めるために昨年度に引き続き札幌地区の若手社会学研究者を中心としたメンバーによる「名誉・羞恥感情研究会」を通算して第9回から第21回まで、計13回にわたって開催できた。さまざまな観点から情報資本主義および名誉・羞恥感情についてアプローチでき、たいへん有意義な研究会となった。その成果をまとめた報告書『情報資本主義と名誉・羞恥感情第2集』を年度末に刊行した。特に昨年度からの継続として、マックス・シェーラーの羞恥論について丹念に検討する場を設けたことにより、名誉・羞恥感情について分析していく上での一つの大きな指針のようなものが得られたといえる。拙稿「情報資本主義と二つの水準の羞恥感情-M.シェーラーの羞恥論を中心に」における【羞恥I】と【羞恥II】という概念にそれは集約的な形で示されている。 実証的なフィールドワークも積極的に実施した。昨年度はアムウェイディストリビュータ-の聞き取り調査を実施し、事例データ5件を第1集に資料として掲載したが、今年度はアムウェイについてさらに3件の事例を増やした。拙稿「アムウェイビジネスにみる名誉感情」はその成果である。コミュニケーションビジネスないし社交ビジネスとでも呼ぶべきアムウェイをそれと類似してはいるが、行為に利潤動機が絡まない自己啓発セミナー、エホバの証人と対比し、名誉感情が情報資本主義において持つ意味を考えてみた。この他に新たにエホバの証人の信者の方からも併せて8件の事例の聞き取りを行った。論文にまとめるまでには至らなかったが、その記録は資料として収めた。エホバの証人については、この教団をすっかり有名にした「輸血拒否」という問題も射程に入れた論文を別の場でまとめる予定である。この他に瀬地山角、正村俊之、西村かおるの方々をお招きした研究会もそれぞれ示唆深かった。その成果は近く別の場で公表する予定である。
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