・扶助の再編が始まった背景である1980年代初頭からの新しい貧困の量的質的な特徴を「古典的な貧困」との比較でを考察し、分析した。特に貧困の悪循環が指摘される、従来の貧困層の「核」である下層労働者階級の状況と、新しい貧困の担い手である失業者(特に長期失業者)の生成過程とその生活状況の共通点と相違を明らかにした。 ・古典的な貧困層への対策の一つである『家族および社会扶助法典』の翻訳を行い、その給付内容、手続き過程、受給の動向から、新しい貧困への対処としての有効性と限界を明らかにした。そして同法典の「社会扶助」制度の社会保護における位置と、他の扶助諸制度との関連を分析できた。 ・特に1988年の創設された扶助であり、新しい貧困に対する社会保護制度として注目されている参入最低限所得RM1制度についてその制定過程(特に政府審議会での討論過程)から従来の扶助との性格の相違を考察できた。次に1993年に発表された5年間の受給動向を分析し、貧困対策としての画期性と限界について纏めることができた。その際、昨年12月末から本年1月に渡仏し、パリ福祉事務所と民間社会福祉団体の聞き取り調査と資料を収集しRM1その他の扶助に対する見解を明らかにすることができた。それによって生活保障制度としてのフランスの社会扶助(広義)の内実と運営に関する論点を整理した。 ・扶助の他の教育、雇用政策、さらに住宅政策との関連を把握し、貧困問題に対するグローバルな対策の必要性を明らかにできた。特に政府の審議会である社会経済評議会の1987年レポート(「極貧と経済的社会的不安定」-通称ウレザンスキレポート)と国会におけるRMI審議文書等を翻訳したが、扶助のみの評価だけでなく他の諸政策との相互関係を明確にすると云う平成7年度以降の研究の課題と方向性を把んだ。
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