研究概要 |
研究期間最終年のまとめとして、1.フランスの現代的貧困の性格,2.扶助諸制度,特に参入最低限所得(RMI)制度の実効性についての分析研究をおこなった。 1については新しい貧困が単なる所得問題にとどまるのではなく,民主主義社会における人としての定在である市民権(Citoynnete)の侵蝕であり,その解体を招くというフランス社会の危機感を明らかにできた。貧困は,今日多くのフランス人に関連する社会的排除(exclusion sociale)との広い概念で捉えられている。社会学的知見とともに,経済学,法律学領域の文献,そして研究者自身から得た知見である。 2では,1と関連して,扶助は単なる金銭給付だけではなく,貧困者を再び社会に組み込み,その定在を確かなものとする「参入手段」でもあることを明らかにした。しかし,特にこの目的を明示した参入最低限所得制度(1988年創設)においては,最低限所得の保障では,従来扶助からもとり落されていた貧困者(特に青年失業者)を捕捉できているが,参入の基本軸である雇用確保にまでは至っていないという矛盾,今後のフランスの扶助制度の課題を明らかにできた。この課題は,平成8年12月から9年1月にかけての,フランスでのパリ市福祉事務所ケースワーカー等,そして職業訓練・職業紹介等の参入援助を行なう民間福祉団体等々の活動家への聴きとり調査から得た知見である。
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