フランスの現代的貧困の性格分析では、特に1990年代にはいり指摘されるようになった、「社会的排除」のプロセス、そして市民権(citoynnete′)の解体という性格について分析した。それはフランス革命以降の民主主義の危機、つまり単なる金銭問題にとどまらない新しい貧困の様相であり、本質であることを明らかにできた。研究は、社会学者の知見だけでなく、法律学、経済学、さらに地域調査等々の文献、報告書も参考にした。 次に第2次大戦後の「福祉国家」における社会保障制度の特徴と、扶助の性格を明らかにし、1988年創設の新しい扶助(参入最低限所得、以下RMIとする)の登場の必然性を指摘した。RMIは、第一に貧困者(特に稼働能力者)とその家族への最低限所得の保障、第二に貧困者に雇用、住宅の確保、そして医療保険の一般化を通じて社会での定在(位置)を確固とするものにする「参入(insertion)」を課題とするが、特にコミューン福祉事務所と民間援助団体の援助を分析して参入援助の行きづまりを明らかにした(1996年12月-1997年1月の現地調査)。ただし、前年度の研究成果として、貧困者の所得保障の「安全網dernier jilet」としての役割では大きな成功を納めていることは、等閑視すべきではない。 労働市場の悪化、失業者のさらなる増大という経済状況の中で、RMI、そして最低限所得保障一般をめぐる論議が活発化しているが、その分析をおこない、貧困との闘い(lutte contrela pauvret′e)の土台は雇用政策(特に公的就労の創出)であり、扶助は貧困者、特に失業者の尊厳ある生活を保障するに足る最低限所得の確立を第一義的目標であることを結論した。
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