本研究は、組織社会学の観点から、戦後日本の高等教育の拡大のメカニズムを明らかにすることである。従来、高等教育の拡大は、経済学によって高等教育の収益率と進学率との関連が、また、社会学的な観点からは学歴主義と高等教育への進学人口との関係が分析されてきた。しかし、これらは、経済的に合理的な「個人」あるいは文化的に動機づけられた「個人」を高等教育拡大の「アクター」と想定しており、これらの「個人」の行為の「集合」として高等教育の拡大を説明するものである。しかし、現実には、全体としての高等教育人口と個人の行為は、高等教育機関という「組織アクター」を媒介として関係を持つことになり、大学・短大などの「組織アクター」がどのような行動をとるかによって両者の関係は変化する。 そこで、戦後日本の高等教育の拡大(変動)過程を大学・短大という「組織アクター」の拡大や分化という観点から分析することが重要な課題となる。従来、組織の拡大や分化の過程については、「技術的-機能主義」的な分析が主流で、組織の「規模」が拡大すれば、その内部は「分化」」するとされてきた。つまり、この「技術的-機能主義」の観点からすれば、大学や短大の定員が増加すれば、それぞれの大学・短大内で新学部や新学科の設置という現象が生じるという仮説が設定できる。他方、最近注目されている組織の「制度的な環境」の影響を重視する「新制度主義」の観点からすれば、大学や短大は、それぞれの量的な規模にかかわりなく、「制度的な環境」の規範に従ってその組織構造を構成すると考えられる。つまり、学部や学科の新設は、同じ「種」に属する一定の「グループ大学・短大」間で類似性が高いという仮説が設定できる。 これらの対抗仮説を、実証的なデータによって検証することを試みたが、必ずしもどちらかの仮説が支持されるという結果は得られなかった。これは、日本では、高等教育が学部・学科の新設が文部省の認可を必要とする一種の「統制市場」に置かれていることによると推察される。
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