平成6年度は、国内外の先行研究の収集を基本に活動した。これまでの先行研究では、パブリック・スクール研究とコンプリヘンシブ・スクール研究とに大別されてしまうのである。もちろん両者は対立するものとして、長く看做されてきたので、当然ともいえる。しかしながらエリートの再生産構造を明らかにする本研究の課題に即して考えた時、両者を統一的に把握しなければならない。またエリートという用語の定義も確定しなければ、いつの時代を対象とするか、焦点がぼけていくことがわかった。 この間、イギリスのボール教授、日本の安川哲夫助教授(金沢大学)、安原義仁助教授(広島大学)の格別なるご指導を仰いだ。ボール教授からは「校長会議」の役割に注目すべき点を、安川先生からは「ジェントルマン教育」の形成と公教育の関係を、安原先生からはイギリスの大学制度についてご教示いただき、本研究が調べるべきものについてのイメージが更に広がった。 さらに年明けに、重要な先行研究が2冊出版された(安川哲夫『ジェントルマンと近代教育』、藤井泰『イギリス中等教育制度史研究』)。 まだ推測の域を出ないのであるが、イギリスでは19世紀以降「財産のエリート」と「業績のエリート」が混在し、さらに「業績のエリート」は「学歴・学校歴のエリート」と「現場主義のエリート」に分類できる。20世紀以降産業構造の変化に伴いエリートの定義も変容するが、パブリック・スクールもまたエリート再生産機構として社会に君臨する為、様々な試みをしているにちがいない。その結節点にあたる時代と内容とを明らかにすることが本研究の中心的テーマであることが明らかになった。
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