本科学研究補助費にもとづく平成6年度の調査による進展状況と新しい知見は以下のとおりである。 1)村人の空間認識にもとづいて、その利用方法を具体的に調査した。海に関しては、見いだされた漁場について、そこに生息する魚介類・海藻類の種類や漁獲・採取方法と対応させて調査した。アワビやサザエといった希少で定着性の高い海産物のとれる「磯」の海域は、村ごとに採集地域が限定されたいわゆる「コミュナル」な場となっている。それに対し、「沖」の海域では「コモン」な性格が見られる。 2)知夫村においては、かつてひろくおこなわれた牧畑の聞き取り調査をおこなうとともに、その後の変遷の過程における個々の土地所有者による私的利用と共同利用との相克を浮き彫りにした。その結果、一部の村人は、共同放牧地の私的所有権を訴えたものの、村人の人口減少にともない、新しく外部から移住・定着してくる人びとにも放牧権を認めていくことによって、村全体の活性化戦略を選択した。 3)海の方向認識を調査した。多くの漁撈民は、広い海の中で自分の現在地や漁場を確認する方法を獲得していることが報告されているが、知夫村では隠岐ノ島の高い山々の重なり具合などで、現在地を認識していた。とくに豊富な漁場では、現在地の細かい確認方法が微細な地形変化をもとにとられていた。 本研究の特徴は、たんに資源そのものと村人のかかわりあいのみならず、彼らの資源認識をはじめとする他の諸要素とを相互に関連させながら、トータルにとらえようとしているところにでてくるのではないか、と思っている。しかし、本計画の第一年次である平成6年度の調査では、上記にあげた調査項目を中心に個別的に調査することができたものの、相互の関連性を含む体系を浮き彫りにするにはいたっていない。平成7年度では、こうした点に重点をおきながら、調査を進行していく。
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