本研究の目的は、ひどいブロンズ病に侵された大量のコインを、できるだけ効果的に現場で処理する方法を確立することにある。そのため以下の手順で研究し、成果を得た。 1.出土コインの錆の分析-コインの錆を日本にもち帰り分析した結果、すべての錆からアタカマイトが検出され、ひどいブロンズ病に侵されていることがわかった。 2.クリーニング剤の選択-従来の機械的処理では、コインの腐食状況、量、処理期間からみて、処理が不可能であることが分かった。そのため、最近使われ出したキレート剤を用いた化学処理のクリーニング法を試みることにし、銅板を溶液に浸漬する基礎実験を行い、それにもとずいて薬剤と濃度を決めた。長期間用にはグルコン酸系キレート剤、短時間用にはEDTA・3Naを用いることにした。 3.表面腐食状況の違いによる脱塩および処理効果-1千個のコインを表面腐食状況から9種類に分類し、その典型的なものを30個選び、脱塩、クリーニング、仕上がり具合についてそれぞれ検討した。その結果塩分はコインの中まで入り込み、できるだけ錆を除去する必要があることが分かった。また白緑、濃緑色の厚い錆に覆われたコインは、崩壊か、全く模様が判別できなかった。 4.保存処理の評価-クリーニング剤の除去具合は、洗浄したイオン交換水のpHとNaイオン濃度を測定し目安とした。また処理効果については、表採コインを同様に処理し、高湿度下におき、その状態を観察し評価とした。 5.処理工程のマニュアル化-上記結果より処理のマニュアルを作成した。これは初めて処理に携わる人への手引書であると同時に、処理を確実に進めるためのチェック表でもある。
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