本年度は現代ウイグル語の文構造の分析を重点的に行った。これまでは中国語や英語の文法を通して、ウイグル語を理解していたが、これを日本語の文法概念に合わせて分析できるように、日本語版のウイグル語文法書を作成した(現在は最も重要な動詞の部分のみである)。この結果、[i][si]の問題以外にも、受け身・使役の構文の類似と相違点が日本語の接辞の発達を論じる上で、大きな発言力を持っているらしいこと、形容詞を作る接辞や動詞を作る接辞などの、品詞の転換をする接辞類が、日本語よりも豊富であり、この接辞の整理が古代日本語の分析には重要な糸口になることも推定できた。更に、構文的な問題としては、「〜することが…」という複句中の体言句を作る方式が日本語の動詞連体形の本来の働きを探る上で、示唆に富む特徴を持っていることも分かった。日本語の特徴という点からは、やはり四段活用が大きな問題になることが確認された。四段活用の発生過程の解明こそ、日本語のルーツを探る大きなポイントになる。 古代ウイグル語の分析が中途半端に終わっていることが、次年度の大きな課題である。この原因は二つある。一つは、協力者の阿不都熱西堤氏が招聘教授としてドイツに赴き、氏の協力が十分に得られなかったこと、もう一つは、大学改革の流れの中で、助手が廃止されたために、教官の事務量が膨大な量となり、夏休みまではその事務をこなすのに多くの時間を割かねばならなかったため、資料をパソコンに入力する作業が殆ど進まなかったためである(事務にかなり習熟したので、次年度はもう少し作業が進むことと思われる)。
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