古代日本語の助詞や助動詞というものの意味は分かりにくく、どうしても現代日本語の枠でしか理解できない。ところがウイグル語の分析を通じて、その日本語の枠を取り外して考えることができるようになる。例えば、『万葉集』にたくさん現れる副助詞「し」は一般的には「強調」としか考えられて来なかった、ウイグル語との対照によって、「指示」の意味であった可能性があることに気づく。その方向を進めてゆくと、回想の助動詞「き」の連体形や形容詞の語尾「し」などとの関連があり得ることもにも気づくのである。また『万葉集』の助詞「い」も強調と呼ばれているが、ウイグル語の中では[si]は母音終止のものに、[i]は子音終止のものに付く。日本語の「し」「い」ももともとはそういう相関関係にあった可能性もある。 現代語の時制についても、現在・過去に大別され、現在形が将来形も兼ねるという枠が共通し、連体形と終止形の文法的機能に重なるところがあることなど、類型的な一致が見られる。これらは共時的・通時的に、体系的に考察してからでなければ結論は出せないのであるが、日本語を見る視点を大きく変化させることができる。 文法に関してだけではなく、句読点が、古くは概念として区別がなかったであろうという推察なども、やはり日本語で日本語を考えていては気づかないものである。
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