研究概要 |
本年度も,前年度に引き続いて,歴史物語と物語文学の政権構造(皇位継承や政権推移の過程を中心とした宮廷世界の様相)の変遷を究明し,それぞれの対比を試み,さらに,歴史物語と物語文学の相関性について検討した。その主な成果は,次の3項にまとめられる。 1,歴史物語各作品(『栄花物語』『大鏡』『今鏡』『水鏡』『秋津島物語』『六代勝事記』『五代帝王物語』『増鏡』『梅松論』『保暦間記』『神明鏡』など)と物語文学諸作品(『竹取物語』『宇津保物語』『落窪物語』『源氏物語』『夜の寝覚』『いはでしのぶ』『浅茅が露』『海人の刈藻』『我身にたどる姫君』『雫に濁る』など)の政権構造を概括して、それぞれを対比し,分類した。 2,上の成果に基づきつつ,「大臣」「摂関」「先坊」などをキーワードに定めて,各作品の史的系列化を試みた。その結果,現実世界が古代から中世へと転換していく実相を反映するだけでなく,歴史物語・物語文学作品群が独自の政治世界を自律的に構想している側面が見いだせた。特に,歴史物語と物語文学各作品が相互に影響し,交流する点が留意される。 3,また,上記の影響・交流の展開を検証するためには,歴史物語と物語文学だけでなく,軍記文学作品群も視界に入れる必要があることが明らかになった。すなわち,密接な相関関係は「歴史物語」と「物語文学」の間にだけ見られるものではなく,「通史的歴史叙述」と「物語体文学」との間に生じるものである。また,該当する各作品はどちらか一方に属するもの,双方ともに属するもの,双方ともに属さないものに再分類されなければならない。これが今後の新たな課題となる。
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